19世紀末デンマークを代表する画家ヴィルヘルム・ハンマースホイ(1864-1916)は、コペンハーゲン美術アカデミーで学んだ後、「自由展」と呼ばれる分離派に参加、アカデミーとは一線を画する活動によって生前にヨーロッパで高い評価を得ました。
その名は、日本ではまだほとんど知られていませんが、北欧の象徴主義美術を代表する最も重要な作家のひとりです。没後、彼の名前は急速に忘れ去られましたが、1997-98年にコペンハーゲンのオードロプゴー美術館長アネ=ビアギデ・フォンスマークが監修したオルセー美術館(パリ)とグッゲンハイム美術館(ニューヨーク)での回顧展によって再び脚光を浴びるようになります。2003年にはフェリックス・クレマーによってハンブルク美術館でハンマースホイ展が開催され、開館以来最大の入場者数を記録し、この作家の高まる人気を示すこととなりました。 |
17世紀オランダ絵画に強い影響を受けたハンマースホイの作風は、フェルメールを思わせる静謐で古典的な室内表現を特徴とし、自国のデンマークはもとより、ドイツやフランス、イタリアにおいても高い評価を得ていました。オランダ風の写実主義で表わされたハンマースホイの住居ストランゲーゼ30番地のアパートを舞台に、妻のイーダは顔を鑑賞者に向けることなく、その後姿が繰り返し描かれました。 鑑賞者を心理的に画中へと導くこうしたモチーフは、ドイツ・ロマン派の巨匠カスパー・ダーヴィット・フリードリヒの系譜に連なるものですが、ハンマースホイの作品において鑑賞者は、女性の後姿によって画中に引き込まれつつも、その背中で拒絶される「招かざる客人」としての不安感も得ることとなります。とはいえ、居心地が悪いわけでは決してありません。むしろ、そうした不安感を抱きつつも、音のない世界に包まれるような、見る者を惹き付けてやまない静寂な絵画空間が創出されているのです。オランダ風の写実主義とドイツ・ロマン派的な心を揺さぶる要素の融合の中に、ハンマースホイの芸術世界の本質が隠されているのかもしれません。 |
本展は、2008年6月28日から9月7日まで先行してロンドンのロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ(RAA)で開催され、9月30日から12月7日まで東京の国立西洋美術館で開催されます。 両展とも、ハンブルク展のキュレイターであったフェリックス・クレマーと、国立西洋美術館の佐藤直樹が共同で企画しました。出品作品はロンドンでハンマースホイ約70点、東京ではハンマースホイ約90点にハンマースホイと同時代に活躍したデンマークの画家ピーダ・イルステズとカール・ホルスーウの約10点を加えた総数約100点となり、これまでにない大規模の回顧展が東京で実現する運びとなりました。 |
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ヴィルヘルム・ハンマースホイ 静かなる詩情 | |||||||||||||||||
会 期 | 2008年9月30日(火)~12月7日(日) | ||||||||||||||||
開館時間 | 午前9時30分~午後5時30分 (入館は閉館の30分前まで) ※金曜日は午後8時まで |
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休館日 | 月曜日 ※10月13日(月・祝)と11月3日(月・祝)および11月24日(月・振)は開館 ※10月14日(火)と11月4日(火)および11月25日(火)は休館 |
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会 場 | 国立西洋美術館 (〒110-0007 東京都台東区上野公園7-7) |
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観 覧 料 |
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主 催 | 国立西洋美術館、日本経済新聞社、ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ | ||||||||||||||||
後 援 | デンマーク大使館 | ||||||||||||||||
企 画 | 佐藤直樹(国立西洋美術館主任研究員)、フェリックス・クレマー(フランクフルト、シュテーデル美術館学芸員) | ||||||||||||||||
お問い合せ | ハローダイヤル 03-5777-8600 |